捏造科学者-STAP細胞事件- | 一般社団法人 中部品質管理協会

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 昨年1月のSTAP細胞発見のニュースは、日本中を感動させ、そして、1年間、それに関する話題にわき、絶望という結末に終わった。本書は、毎日新聞の女性科学担当記者が追った事件の顛末と科学界への警告であり、科学技術のあり方を考える事実として、参考となる。
 そもそもSTAP細胞の万能性の証明は、次によってなされる。① 酸化処理を行ったOct4という遺伝子が働き、細胞が緑色の蛍光を発する。(→後に細胞の自家蛍光しか確認されなかった)② Oct4が働いた細胞をマウスの皮下に移植すると、テラトーマが形成される。(→写真が、小保方氏の博士論文の流用で、捏造とされた)③ 緑の蛍光を発した細胞を、マウスの受精卵に移植し、仮親マウスの子宮に戻すと、受精卵由来の細胞と、注入した細胞由来の細胞(緑色)が混じったキメラマウスが誕生する。(注.キメラとは、ギリシャ神話にある体がいくつかの種類の動物からなる怪獣のことで、異なる遺伝子をもつ細胞からなる生物に名づけられる)
 この事件の論点は、論文が捏造であったことと、STAP細胞そのものの存在、の2点にある。捏造であったことに関しては、上記の②とSTAP細胞の電気泳動を示す写真が、異なるデータからの切貼りで、改竄と指摘された。また、これとは別に、小保方氏の博士論文(早大)の一部が、アメリカNIHのウェブからのコピペ(コピーアンドペースト)であることが指摘された。
 STAP細胞の存在については、若山氏、第三者機関等が調査した結果、① 理研で小保方氏が作ったSTAP細胞を山梨大の若山氏のところで、STAP幹細胞に変化させた時、異なる細胞(ES細胞?)の混入が濃厚になった。② 生命科学センターのRNA分析の結果、異なる系統のマウス由来のES細胞に近い細胞と確認された。しかし、誰が、なぜ、どのような研究不正行為に関わったかについては、まだ、グレーな部分が多い。
 本書で、著者が強く指摘しているのは、理研の経過説明において、論文自体の調査を軽視し、先送りしたことである。すなわち、何が起きたかを明らかにせず、再発防止への動きが弱かったことである。私も、傍から見ていて、小保方氏がもう一度実験をやって、STAP細胞が再現すれば良いのではないかと思ってしまったが、原因究明と再発防止こそが真の科学的態度である。
 論文についても、先にネイチャー、サイエンス、セル、の各誌で不採用になったが、査読結果が反映されていない。(著者は、これも詳細に調べている)例えば、遺伝子の働きが、時間経過で低下するという不都合なデータが削られている、STAP細胞を塊として見るのではなく、一つひとつの細胞として評価すべきである、誤差範囲を示すエラーバーが示されていない初歩的ミス等。丹羽、笹井というこの分野の見識者が著者に入ったことで、通ってしまったようである。
これも再発防止と、広く意見を聞くという観点から科学者の姿勢として望ましくない。
 著者は、科学者も組織の一員であり、守るべき立場や生活があり、プライドや虚栄心をもっていて難しいことを認めているが、科学者の論理よりも組織の論理を優先した理研や早大の事件への対応を指摘している。そして、科学者の理想像として、あくなき好奇心と探究心、実験や観測のデータに対する謙虚さ、そして、誠実と科学者としての良心を挙げている。
 企業から生み出す製品は、顧客、社会、環境と多大な影響を与える。技術者は、技術開発にあたって、科学者以上に技術倫理を大切にしなければならない。         (杉山 哲朗)