マ-ケティングと共に | 一般社団法人 中部品質管理協会

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マーケティングといえば、フィリップ・コトラーが思い浮かぶ。本書は、日経新聞の「私の履歴書」に紹介された自伝である。TQM活動は、製品品質の改善から、お客様満足を提供する製品・サービスの実現へと拡大していく中で、製造、技術から営業へと上流に活動がシフトし、マーケティング活動の重要性が指摘されてきた。マーケティングといえば、4つのP、すなわち、プロダクト(製品)、プライス(価格)、プレイス(場所)、プロモーション(販売促進)くらいの知識しかなかったが、TQMの源流としてのマーケティングの重要性を学ぶことができた。

マーケティングとは、「企業業績の向上と顧客の価値・満足を創造することで、人々の生活の改善を目指す実践的な学問である。」と言い、社会の変化、ニーズを取り入れ、考え方を拡大し、発展してきた過程が解説されている。

マーケティングの基本プロセスは、R→STP→4P→I→Cである。Rの市場リサーチから始まり、次は、S(セグメンテーション、顧客の区別)、T(ターゲティング、目標設定)、P(ポジショニング、提供する便益の明確化)、続いて、選択した市場を攻略する4つのPを計画する。それをI(インプリメント、実行)し、最後にプロセスを改善するためのC(コントロール、管理)の段階となる。マーケティングの対象は、製品の拡販から始まったが、場所(都市、地域、国家)、人(有名人をつくる)、思想(性の平等など)、信条(栄養価の高い食品の摂取、定期的な運動など)にも応用できるとし、次のように拡大が図られてきた。

ソーシャル・マーケティング。貧困、飢餓、疫病、環境破壊などの問題(People、Planetの2Pを拡大)にマーケティングの考え方を活用して解決する。例.エイズの感染拡大防止、喫煙防止や禁煙を目的とするキャンペーン。

デ・マーケティング。石油、水、空気、木材などの過剰消費を防止するための自制ある消費を促すマーケティング。例.富士山の登山者数を制限して、観光、文化資源を守る活動。

NPO(非営利組織)のマーケティング。学校、医療、社会福祉・慈善団体、宗教団体、美術館などの運営に、経営思想を導入し、サービスの質の向上につなげる活動。

社会的責任のマーケティング。「成長の限界」(1972年)の出版に鑑み、マーケティング活動は世界の資源など、社会におよぼす影響について責任を持つべきと考え、企業の社会的責任として企業が支援する慈善活動や寄付行為がもたらす効果測定の研究を実施した。

地域・公的サービスのマーケティング。公的機関に欠けている、顧客志向と業務革新をマーケティング手法で改善し、パーフォーマンス(働きぶり)を向上させる。例.スペインのビルバオの都市づくりとして世界をひきつける美術館の建設。「おもてなしの国」日本づくりは、国家マーケティングのテーマとなると指摘している。

さらに、今は、貧困解決による人々の生活向上や平和の実現へのソーシャル・マーケティングの適用を考えて、「資本主義の再考 長所、短所、解決策」の著書を執筆中という。

コトラーの最も有名な著書は「マーケティング・マネジメント」(14版を重ねる)であり、上記の新しい分野のマーケティングを提唱するたびに著書を出版し、マーケティングの学問の発展と実践に貢献している。親日家であり、根付けを趣味とし、現在、83歳。まだまだ、知りたいこと、やりたいことばかりという著者の旺盛な好奇心には脱帽する。          (杉山 哲朗)