エンジアニングの真髄 | 一般社団法人 中部品質管理協会

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人類の生活の進歩は、科学とエンジニアリング(工学、技術)に大きな恩恵を受けてきた。科学とエンジアニングを対比してその本質と、将来のエンジニアリングへの期待を解説し、エンジニアが活躍していくための指針とやりがいを与えてくれる書である。

科学とエンジニアリング。科学者は今あるものを研究し、エンジニアは今までになかったものを創る。例えば、ロケットのアイディア、形状、燃料、推進装置、制御装置は、容認しうる時間、費用と危険の範囲内で、望む目的を達成するための得失を考え、多数の選択肢の中から、エンジニアが決定する。エンジニアリングには唯一の解は存在しない。一方、その有用性、信頼性を保証するために利用されるのが物理、化学といった科学である。

科学とエンジニアリングとどちらが先か。 ある学問を変えたいと思ったら、新しい技術を発明して、それまでに見ることのできなかった領域に踏み込めるようにすることが必要になる。新しい技術が科学の進歩を促進してきた。例えば、ニューコメン、ワットの発明による蒸気機関が熱力学を誕生させ、マルコニーの無線通信技術が電離層の発見につながり、ライト兄弟の飛行機の発明が航空力学を発展させた。エンジニアがものをつくる時、論理的、合理的で、予測可能にして最高に機能的なただ一つの方法は存在しない。

部分の組み合わせで、新しいものを生み出すエンジニアリング。アポロ13号が飛行中に酸素タンクと燃料電池が故障し、帰還が困難になった時、CO増加防止のために、地上管制センターのエンジニアたちは、キャビンの中から修理に使えるものをリストアップし、宇宙飛行士たちが作成可能な方法を検討して、帰還するための応急処置としての炭素フィルターを考案した。エンジニアリングは、多くの人の知恵と工夫の資産であるといえる。

減速ダンプへの対応。道路には、スピードを減速させるための方策として、減速ダンプが設計されている。消防車、救急車の走行時、ガソリン使用量の増加、騒音といった影響を考慮して対策を講じるのが真のエンジニアである。エンジニアは主目的の先まで考えて、マイナス面を予見して設計を修正しなければならない。例えば、職場における過剰Eメールによる仕事への障害は、当初は考えていなかったが、喫緊の課題である。

不確実性、複雑系に対するこれからのエンジニアリング。風力発電、太陽電池の開発、自動車のガソリンに代わる燃料、電池・電気自動車といった代替車の使用は局部的に有益というだけでは解決にならない。地球全体に利便をもたらすために、システムエンジニアリングで、開発にあたらなければならない。地震、さらには小惑星の地球衝突といった事故に対する予防処置には、定量的で正確なリスク評価や歴史的事例研究が必要である。また、エネルギー、環境、医療といった新しいシステムの複雑さは、生物や環境への影響と相まって倫理的な問題を引き起こす可能性がある。純粋科学、応用科学とエンジニアリング、経済学、金融学とエンジニアリング、社会、産業とエンジニアリングというように、科学、技術には、広く人文科学をも視野に入れて、地球とその住民を守るエンジニアリングが期待されている。科学者、エンジニアのみならず社会学者、政治家、産業界と人間全員が関係者であり、全員で力を合わせなければならない。とくに、世界の指導者たちには、科学技術に対して正しい見方ができるための広い見識が求められる。   (杉山 哲朗)