魂の経営 | 一般社団法人 中部品質管理協会

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 車が売れなくなった自動車メーカーはどうなるか。鉄が売れなくなった鉄鋼メーカーはどうなるか。富士フィルムは、2000年、フィルム、カラー印画紙の写真事業が6割を占め、利益の2/3を稼ぎ出していた。しかし、デジタル化によって、2000年をピークに年率20~30%でこの市場は減少し、10年後には1/10にまで落ち込んだ。古森重隆会長は、2003年、CEOに就任して「21世紀を通じてリーディングカンパニーとして生き続けること」を目指して、経営改革に取り組み、第2の創業を成功させた。本書は、その経緯と古森氏の経営者魂を紹介している。
 2004年、VISION75に掲げた経営の柱の一つが、新たな成長戦略の構築である。フィルムは、感光層機能素子を20μ、20層に積み上げる精密塗布技術によって、微弱な光エネルギーを捉え、増幅、発色、記録する多くの高機能技術を有している。この基盤技術をニーズに照らして、市場-技術の2軸に対し、新規、既存から事業を整理したのが4象限マップである。そして、勝ち続ける新事業として、①デジタルイメージング・光学デバイス(例.スマートフォンモジュール)、②高機能材料事業(例.液晶パネルの偏光板保護フィルム)、③ドキュメント事業(例.複写機)④メディカルライフサイエンス(例.松田聖子、中島みゆきをイメージキャラクターとする化粧品アスタリフト)、に絞り込んだ。そして、研究開発体制の再構築を図り、売り上げの8%に相当する2000億円の研究開発投資を、11年間継続した。その結果、事業構成も大幅に変革し、売上高を2000年、1兆4403億円から、2007年、2兆8468億円へと成長させた。
 そして、有事に際して経営者がやるべきこととして、①読む(現状から将来へシミュレーションを重ねて、会社がどうなっていくかを読む)、②構想する(どこへ進むべきか、何をすべきかをプランに落とし込む)。③伝える(社員と危機感を共有し、経営者の強い意志を伝える)、④実行する(決断したらやり遂げる)、を挙げ、100の判断をしたら、100を絶対間違えないように全身全霊を傾けてきた、という。そして、全ては勝つか負けるかの戦いであり、競争であると言い切る。
また、ビジネスパースンが仕事で成果を発揮するための人間力として、次の「ビジネス五体論」を紹介している。5感と6感(相手より素早く、正しく情報をキャッチ)、頭(脳)(情報を分析し、戦略、戦術を立案)、胸(ハート)(人への関心、思いやり、共感)、腹(度胸、ガッツ)、足腰(行動力、現場力)、腕、手(技術やスキル)、口(意志の表現力と伝達力、説得力)、顔、姿勢(人の生きざま、使命感、責任感の現れ)。
今の日本は、政治、経済のみならず多くの場面で、リーダーの不在、リーダーシップの欠如が問われる。経営者の心得、ビジネス五体論は、これからのリーダーを志す人に、是非、学び、体得して欲しいものである。
日本経済再生のために、みんながもう一度、「絶対にやるぞ」、「負けてたまるか」という気持ちになって頑張ること。「後ろ向き、内向き、下向き」から、「前向き、外向き、上向き」へとマインドリセットをせよ、と激を飛ばす。    (杉山 哲朗)