アップル帝国の正体 | 一般社団法人 中部品質管理協会

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 1976年、小さなガレージから始まったアップルは、わずか40年の間に歴史上、世界に類を見ない成長を遂げるまでになった。ジョブズという天才が全ての製品開発に関わり、牽引し続けてきたと言われるが、それだけではない。なぜアップルがこんなに強く、日本のパナソニック、ソニー、シャープといった家電メーカーを打倒してきたのか、つぎのような理由が挙げられる。
・少しでもコストの安い商品が勝つことが常識であった、家電・IT産業において、高価でも若者が飛びつくようなデザインの製品を開発し続けた。
・妥協なきハードウェアを作り上げるために、アジアの国々のメーカーの技術や生産能力、コスト構造まで調べ尽くして、コスト管理を徹底した。その代表が日本メーカーで、シャープの液晶、ソニーのイメージセンサをはじめ、アップル向け部品を作るiFactoryが数十社ある。その最初は、iPodの裏ぶたを職人の手で磨く、新潟、燕市にある小林研業であった。一方では、その日本の匠の技もコモディティ化し、中国に移転させてしまったという厳しさも持つ。
・ファブレスメーカーとして、デザイン、設計は、アメリカ本社にありながら世界中から優れた部品を取り寄せ、鴻海グループのコストの安い中国の工場で作らせる。また、その工場でアルミケースの微細加工をしているのはファナックの最先端の工作機械である、という。
・iPhoneという一つの端末で、音楽から映像、通信、ビジネスコミュニケーション、地図、ゲームまでを楽しむことを可能にした、アップルのノウハウともいえるソフトウェアの力である。ソニーのウォークマンはiPodのお手本であった。ソニーのサイバーショット(デジカメ)に使われているイメージセンサは、iPhoneのカメラに装着された。さらに、ソニーのパソコンのVaioや電子書籍端末はiPadに取り込まれつつある。2000年代、アップルの売り上げ、利益は急速に増加したが、逆に、ソニーはそれだけ衰退したのである。
・ジーニアスバー(天才のカウンター)と呼ばれるアップル製品のクォリティを最大限に伝えるために考え抜かれたアップルストア(直営店)、在庫管理と生産管理のためのサプライチェーン、世界最高の部品を最低のコストで入手する調達力、といったグローバルな経営システムを構築してきた。
 そのアップルでさえ、次なるイノベーションの製品が見えない、韓国のサムスン電子の追い上げ、と安泰とはいえないのが、現在の熾烈な競争である。
 アップルは、新しい製造技術からソフトウェアの新潮流まで、貪欲に吸収し続けることで、世界中をカバーする情報ネットワークを築いている。これは、一つのインテリジェンスと言ってもよい。著者たちは、その欠落こそが日本の家電メーカーの凋落につながっている要因ではないだろうか。産業構造変化の波の中に飛び込み、現状を打破して再出発すること、それが、かって栄光を手にした日本企業に欠かせない、と主張している。      (杉山 哲朗)