アナタはなぜチェエクリストを使わないのか? | 一般社団法人 中部品質管理協会

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 本書は、ハーバード医科大学院で、外科医を務めるアトゥール・ガワンデ(米「タイム」誌の世界で最も影響力のある100人に選ばれた)が、絶対にミスの許されない医療現場で辿り着いた、チェックリストの有効性と活用についての体験談である。
 ハーバードでは、1年250種類の病気、医者1人あたり300種以上の薬を処方、100種以上の検査、400種以上の手技を施している。また、アメリカでは、年間5000万件手術があり、15万人以上(交通事故死亡者の3倍以上)が、手術で亡くなっているという。
 医療だけでなく多くの分野で、知識の量と複雑性は一個人が活用できる範囲を超えてしまった。経験と知識を有効活用しつつ、人間の限界を補ってくれるのがチェックリストである。すなわち、医者だけではなく、ソフト開発者、警察官等、多くの専門家が複雑な仕事をするときに、人間には、記憶力と注意力の危うさ、手順を省く誘惑、という問題があり、その予防策となり、良い成果を挙げる道具になるのがチェックリストである。
 著者は、医療の世界にチェクリストを導入するために、パイロット、建築家、シェフの現場を訪問し、そのキー・ファクターを学んだ。例えば高層建築の現場では、工事スケジュール表のチェックリストと、予想外の問題が起きた時に懸念点を話し合い、進むべき方向を合意する、コミュニケーションのためのチェックリストを学んだ。複雑な問題には、自由と制約の適度な配分が必要であり、一極集中でなく、メンバーに権限を分散させることが大切である。一流レストランでは、レシピという基本的なチェックリストの他に、チーフシェフが、料理中、気がついたことを、担当シェフに時々刻々と「キッチンノート」と称するメールを送っていることを知った。また、チェックリストは、必ず実世界で試用することが重要で、ボーイングで、緊急時にパイロットがどのようにしてチェクリストを使うかをフライト・シミュレータで体験した。
 そして、WHO(世界保健機構)から、手術関連の死や害を防止するプロジェクトのリーダーを依頼され、そのためのチェックリストの実用化にあたった。すなわち、麻酔をかける前(7項目)、皮膚切開の前(7項目)、手術が終わって患者が手術室から運び出される時(5項目)、のポーズポイント(一時停止点)毎のチェックリストを作成。中には、アレルギー、抗生物質、麻酔の項目の他、チームワークを高めるための項目として、「スタッフがお互いの名前を知ること」、「全員に手術計画や懸念点を発言する機会を与える」が入っており、全員がチェックリストを声を出して読み上げることが義務づけられている。そして、チェックリストを活用するためのビデオを作成し、世界の先進国の4病院、新興国の4病院で、それぞれの地域に合わせた形で試行された。その結果、合併症36%減、死亡率47%減、感染症半減、再手術の確率3/4の効果を挙げたのである。
 著者自らがチェックリストを活用したことによって助けられた体験を紹介し、単に形として、チェックリストを使うだけでなく、チェックリストを通じて、職場にチームワークと規律の文化を醸成することが大切であることを強調している。
 最後には、「チェックリスト作成のためのチェックリスト」を提示する等、事例の中で、チェックリスト作成のためのノウハウも数多く紹介されている。    (杉山 哲朗)