問題解決学としてのKJ法 | 一般社団法人 中部品質管理協会

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 問題解決の考え方について、原点に戻って勉強してみようと思い、改めて、川喜田二郎著「創造と伝統」(平成5年)を手にとった。帯では、当時の各界の識者である梅原猛、加藤寛、大賀典雄等が画期的大著と絶賛している。20年を経た今でも新鮮で、教えられるところが多い本であった。
 KJ法の真髄は、「人は情報を受け入れるに際し、自我意識を没却し、己を虚しくすることによって明鏡止水の心境になり、心の鏡に状況を映し出すことによって己の主体性を活かすことにある」である。そして、具体的には1枚のラベルに志を訴える、それに自分の判断を上乗せして情勢判断をする。手続きとして、加(ラベルに書き込む)乗(議論をして表に組み立てる)減(衆目評価をする)除(統計処理によって賛否を決定する)で、チームワークを発揮して価値あるものを創造する問題解決学である。
1.KJ法は人を育てる。人の行動は、保守性(現状維持)と創造性(現状打破)から成り、創造的行為は、「ひと仕事やってのける」(主体性を持って、一つの問題を初めから終わりまで解決し達成すること)である。ひと仕事は単なる肉体的活動だけではなく、よしあしの評価と決断が伴うものである。そして、仕事を与える方は、「信じて任せる方式」で、箸の上げ下げまで細かく指示するのではなく、創意工夫しろ、と部下を信じて任せることが大切である。それによって、やった本人は満足感を持ち、さらに新しい課題に意欲をもってチャレンジし、成長していくことができるのである。
2.KJ法はあらゆる問題解決を可能にする。KJ法に性・年齢・地域差はなく、活用の場を広げたい。① 民族間の問題は、お互いの価値観、文化の違いから生じる。お互いに全体情勢を把握し、関係者で衆目評価をすることによって、納得、合意、協力の関係を築き、逆縁を切り、良縁を育てることができるはずだ。② 現状の教育は心が通い合っていない。現場から事実をして語らしめ、知る、わかる、身につける、の3段階で納得のいく道を考えてみたらどうか。③ 文明の進化によって、現代は環境公害、組織公害、精神公害がはびこっている。みんなで創造的な努力をして取り除いていかなければならない。
 人および社会は、環境から情報を得て、情報は環境に反作用をおよぼすという情報のやりとりによって、環境と人がつながっている。その情報が加工されていく過程において、偏見と主観が入り混じったものになっていく。今までの文明は、その情報を操作する者が支配者になり、権力による画一化と管理によって、混乱と崩壊を繰り返してきた。情報の多様性の総合と調和をどう創り出すか。分析と推論を超えた総合という問題解決学がKJ法である。川喜田さんは、日本は、物質文明から脱皮し、場に没入し自然が語りかけてくるものを素直に受け入れていく没我とチームワークの文明を目指して欲しい。技巧より素朴という原点に戻って、日本の生活者の思想である「ひと仕事やる」という創造的行為に邁進して欲しいと願っている。         (杉山 哲朗)