レジリエンス(復活力) | 一般社団法人 中部品質管理協会

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 現代社会は、地球の環境変化、気候変動による災害(例.東日本大震災、カトリーン台風)、技術、政治、経済の多様化による混乱(例.9.11同時多発テロ、リーマンショック)等の人智を超えた想定外の事態が生じた場合、その被害を最小限に食い止めることが求められている。物質や人にとどまらず、あらゆる物事の望ましくない状態から脱し、安定的な状態を取り戻す能力がレジリエンスである。製品・システムの安全性、信頼性を研究する信頼性工学の次として、レジリエンス工学が提唱されている。アメリカでは、人間の精神的レジリエンスと組織、経済、生態系といった様々な分野のレジリエンスについて研究されている。本書ではレジリエンスの理解に役立つ事例が多く紹介されている。
 レジリエンスのアプローチは、① 回復不能なダメージを被りかねない領域に押しやられないように抵抗力を身に着ける、リスク緩和の働きと、② リスクが閾値を超えてしまった時に、システムが健全に適応できる領域を維持する、リスク適応の働き、からなる。その必要条件は、危険を感知し対応するフィードバック機能と、資源とプロセスの集中化を避け、混乱時には、一部を切り捨て混乱に即応する、あるいは供給源の多様化である。
 あらゆるシステムは、頑健性を持つように設計されているが、脆弱な側面を持っている。例えば、森林は、森林火災にならないように、植木の間隔や道路が設計されているが、予期しない害虫には弱い。複雑性、集中度、同質性によって、脆弱性はさらに高まる。
 レジリエンスなシステムの例をあげると、① 2003年、北米の大停電の原因は、最高の技術による送電網と19世紀の電話回線の異常警報システムのミスマッチにあった。対策は、状態監視センサーと汎用性の高いプロトコルからなるモジュール化したネットワークと自律分散システムのスマートグリッドの開発である。② インドネシアのオランウータンの絶滅を危惧する活動家は、中心から3重に多層化した木々を植えることによって熱帯雨林の生態系の回復を目指している。多様化こそが自然界のシステムのレジリエンスである。
 レジリエンスなシステムにするためには、個人も組織も社会もレジリエンスを高めていかなければならない。個人でいえば、信仰心を持つことや瞑想することによって平常心を高める習慣を身に付けることがレジリエンスを高めることになる。人には脳下垂体から仲間との協力と信頼を左右するオキシトシンという物質が分泌され、それを有効に使うという神経科学の研究、人の集団での意思決定に有効なゲーム理論の研究等がある。組織でいえば、アメリカの陸軍では、悪魔の指導者といって、クリティカルシンキングを持ちこみ、指揮官の自信過剰や集団思考の危険から遠ざける役割を持つ特命隊員を養成し、配属する。これによって組織の多様性を持たせるのである。社会でいえば、市民が直接参画し、社会的規範として、麻薬常習者や暴力連鎖といった非難すべき行動の拡散防止を推進する、廃棄物のリサイクル活動のような正しい価値観を普及する、といった行動をとることが社会のレジリエンスを高めることになる。
 アメリカは多様で文明的にも進化した国だけあって、常に、将来の事態を先取りし、様々な領域において基礎的な研究に取り組み、対応力を高めるシステムをつくっていることに感心する。過去もそうであったように、将来も混乱をさけることができない。人類の英知を結集し、絶えずレジリエンスを高めていく努力が求められている。   (杉山 哲朗)