朝香先生を偲ぶ | 一般社団法人 中部品質管理協会

一般社団法人 中部品質管理協会は、品質管理を中心とする管理技術・マネジメント手法を教育・普及する専門機関です。QC検定®対応講座も開催しています。

ホーム > 朝香先生を偲ぶ

 朝香鐵一先生(東京大学名誉教授)が、昨年12月28日、満98歳でご逝去された。心よりご冥福をお祈り申し上げます。戦後、日本がアメリカからQCを学び、実践してきたことは、戦後の経済発展の要因の一つに挙げられる。既にお亡くなりになったが、石川先生、水野先生と共に、日科技連をはじめとする組織で、日本の企業に対してTQCからTQMの浸透、デミング賞の指導に、全身全霊を傾けて取り組んでこられた。トヨタグループは、トヨタ自動車をはじめ、多くの会社が先生からTQMのご指導を受け、デミング賞を受賞している。トヨタ車の品質を世界ブランドへと押しあげた背景には、朝香先生の力によるところが大きいと言っても過言ではない。
 朝香先生を偲んで、ご著書である「TQMの浸透で企業革新」を再読してみたが、先生がTQMで強調されたことを振り返ってみたい
 トップマネジメントのリーダーシップ。経営者は、5~10年先のビジョンの策定と企業としての方向付けを行い、年度会社方針を策定、そして、部課長方針・方策へと展開させる。さらに、社長診断によって企業への貢献度を確認する。特に、社長診断では、社長自ら、社長方針が、部課長方針・方策へと展開され、計画がPDCAのサイクルを回して実施されているかを現地・現物で確かめることが大切である。
 トップを支援する部課長の役割。部課長は、TQMのセンスを持ち、経営者のブレーンとして活躍しなければならない。部課長は、自部署をきちんと掌握し、QC的な考え方、QC手法を研鑚し、コントロールとマネジメントの力をつけ、日夜努力してこそ、企業の繁栄に寄与できるのである。(TQCのCは、ばらつきのコントロール、TQMのMは方針管理のマネジメントと解説)
 部門間連携。企業の体質をよく観察し、問題点を見出し、いろいろの角度から解決するためには部門間連携が大切である。部長は役員の前で実情を正しく報告し、諸問題を全社をあげて解決するためのベクトル合わせを行う。そして、製品企画、開発設計から購買、生産、品質保証、営業の各部門の連携プレーが重要である。
 現場のきめ細かい管理と作業員へのおもいやり。ばらつきが大きいことに対して原因追求を共に苦しみ、正しい原因をつかんで規格内におさめた喜びを共に分かち合う現場。作業員の創意工夫を尊重し、健康管理にも眼をくばるマネジメント。役に立たない管理図はないか、数量の背景がわからないCpはないか、日付の無いデータはないか、ゴミ、ホコリの管理はよいか、といった管理のきめ細かさが必要である
 QC教育の徹底。企業内の問題をQC的センスをもって解明できるように、経営者、部課長、スタッフ、職組長の全階層にQC教育を実施しなければならない。問題解決には、QCの考え方、QC手法が根本にあることに気付き、全員参加で、継続的に改善に取り組むことによってTQMを浸透させることが大切である。
 さて、今の企業の現場の実態を振り返ってみる時、果たして、これらのTQMの考え方がマネジメントの基本として確実に実践されているだろうか。企業体質を強化していくために、温故知新でTQMを再確認し、地道に実践していくことが望まれる。
                               (杉山 哲朗)