科学としての経営学 | 一般社団法人 中部品質管理協会

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 アメリカ、ニューヨーク州立大学で経営学を研究する入山章栄 著「世界の経営学者はいま何を考えているか」の主張である。アメリカの経営学者はドラッカーを研究しない。ドラッカーの言葉は名言であっても科学ではない。経営学は、企業経営を科学的な方法で分析し、その結果得られた成果を教育を通じて社会に還元していく。科学と真理の探究のために、理論を探索し、それを信頼されるデータと手法でテストするものであるという。本書では、統計的な細かい分析は省略して、経営学から導かれた本質的な考え方をいくつか紹介している。なるほどと納得する事例が多い。
・ 持続的な競争優位をもっている会社を、1972~1997年までの全米40産業、6772社の時系列データから分析。①10年以上同じ業界のライバルよりも高い業績を残している場合は、2~5%にすぎない。②競争優位を保つ期間は短くなってきており、一旦競争優位を失っても再び競争優位を獲得する。激化する競争社会でビジネス環境も激化しており、その現象をハイパー・コンペティションと称している。
・ 統計学を活用する場合も、SQCと同様、活用に注意が必要であることを例示している。「事業の多角化は、企業価値にプラスの効果があるか」という課題を分析するに際し、多角化に加え、知的資産という別の要因が影響するモデレーション効果があることを忘れてはならない。重回帰分析での多重共線性と同じ問題である。
・ 組織は経験から学習するが、そのラーニングカーブを整形外科手術の複数の執刀チームが、同じ病気の手術を行った時間の比較分析から検証している。すなわち、①チームが同じメンバーで繰り返し手術を経験するほど時間は短くなる。②病院の中でもラーニングカーブは認められる。③個人の手術経験は、ある程度蓄積するとチームにマイナス影響を及ぼし、さらに進むとプラスの影響を与える。
・ 組織における情報の共有化の重要性について、トランザクティブ・メモリーという組織学習の研究から、組織の記憶として重要なことは、組織全体が何を覚えているかではなく、組織の各メンバーが他のメンバーの「誰が何を知っているか」を知っておくことである、と証明している。これは、恋人同士のカップルからの記憶力を引きすだす実験データから導いている。
・ 企業のイノベーションには、新しく知の範囲を広げるための「知の探索」と、既存の知識を改良していく「知の深化」が必要で、そのバランスをとっていくための戦略、体制、しくみを整えることが大切である。
・ 国民性指数という尺度をご存知だろうか。ホステッド指数といって、国民意識を、個人主義か集団主義か、権力への意識、不確実性への意識、自己主張性の4つから評価する。日本人は調査した69か国中、32位の個人主義に位置し、際立った集団主義とはいえない。(もちろん多くの欧米諸国は10位以内、中国は55位、韓国は58位)日本人と国民の距離が近いのは、ハンガリー、ポーランドで、韓国とは39位、中国とは47位であまり近くない等々、興味深い。海外進出に役立つ指標である。
 知られざるビジネスの知のフロンティアと副題にあるとおり、経営学から導かれた知恵を、気軽にわかりやすく学ぶことができる。          (杉山 哲朗)