福島原発事故に学ぶ | 一般社団法人 中部品質管理協会

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福島原発事故が起きてから1年半になる。最近、大前研一氏が「原発再稼働最後の条件」の著書、柳田邦男氏が文芸春秋(9月、10月、11月)で、「原発事故 私の最終報告書」の論文を発表している。多くの分野で、信頼性・安全性を考える上で参考になる文献である。
大前氏の著書は、政府や国会の事故調査委員会とは独立に、原発の実務経験者、原子炉設計者のプロの協力を得たプロジェクトで調査した報告書である。原子力発電のしくみ、地震と津波によるダメージの写真から事故調査に至るまで、判り易く解説されている。この事故において、1966年の原子炉安全委員会報告の安全機能は、緊急停止したことを除いてことごとく作動しなかった。原子炉の格納容器は、3~4.5㎝の鋼鉄と2mの鉄筋コンクリートで守る構造になっており、大丈夫だという安全神話が崩れたのである。
事故分析は、クロノロジー解説(起きた事象と対応を時系列で記述したもの)と、メルトダウンに至るか否かの分岐点がどこにあったのか、福島第2、女川、東海第2の他の原発と、揺れの程度、電源の有無、冷却源の有無等を比較することによって示され、その原因を明らかにしている。すなわち、外部電源(地震の段階で既に喪失した)と非常用電源の機能喪失が発電機の冷却源や電源盤等への被害へと拡大し、過酷事故に至ったと結論付けている。1990年の原子力安全委員会の「長期間の全電源喪失は、送電線の復旧、又は、非常用電源の修復が期待できるので考慮する必要はない」という安全指針が間違っていたのである。柳田論文でも、この姿勢は「考える必要はない」という思想が一つのムラ社会で支配的になった時、もはや、「なぜ」と真実を究明する科学的思考は封ぜられ、理性は死への道を辿る、と厳しく批判している。
信頼性・安全性の教訓として、①「可能性は限りなく低いのだから、想定しなくてよい」のではなく、「どんな事態が起こっても過酷事故は起こさない」という設計思想に基づくアクシデントマネジメントを策定し、実行できる訓練が必要である。例えば、電源盤の機能が失われ、中央制御室で、作業員は暗闇の中でバルブの開閉も思うままにならなくなった。②同じ仕様や原理で働くものを複数用意する(多重性)だけでは、今回の津波のように全て故障してしまう可能性がある。原理や方法の異なるもの(多様性)の冗長性が必要である。③福島原発は4号機まであったが、複数プラントを同時に稼働するリスクを忘れてはならない。等、多くを学ぶことができる。
柳田論文でも、事故原因の究明をA.「システム中枢」における炉心制御の失敗、B.「システム支援領域」における失敗、C.「地域安全領域」における住民、環境への被害を最小にする対策の失敗、の3層に分けて分析している。C.の領域では人間の尊厳が失われており、事業、行政、技術からの視点に加えて、被害者の視点からの分析が重要であると指摘している。他にも、柳田氏がいつも指摘する、安全のm-SHELL分析、組織事故のスイスチーズモデルによる分析等、啓発されるところが多い。
多くの技術者の皆さんに、自らの仕事に照らしてみて、事故分析のやり方、様々な信頼性・安全対策を、ぜひ、横展開していただきたい。      (杉山 哲朗)