科学技術教育の振興のために | 一般社団法人 中部品質管理協会

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 アメリカのサイエンス・ライターによる「高校生科学オリンピックの青春-理系の子」を読んで、日本の若者の理系離れが叫ばれる中、日本の科学技術を振興させるための人材育成の一つのヒントがあるように思った。
アメリカでは、インテルがスポンサーになって、国際学生科学フェアというイベントが1997年から始まっている。本書は、2009年のフェアに参加した1502人の中から取材した13人の高校生の挑戦内容と、その運営のやり方を紹介している。
 例えば、10歳で独力で爆薬を製造し、核融合炉の製造に挑んだ少年、自閉症を持ついとこのために画期的な教育プログラムを生み出した少女、少年院で非行少年たちの眠れる知の才能を発掘した熱血理科教師、ナノテクノロジーで多くの特許を獲得して会社を設立、第二のビルゲイツと呼ばれる少年と(このフェアに参加した5人に1人は特許を出願する)、研究に青春をかけた若者たちの感動のドラマに心を打たれる。
これは科学オリンピックともいわれ、50以上の国々からの高校生が集まり、5日間にわたって研究成果を発表し、審査員の質問に答える。そして、数多くの科学分野で賞が決まり、日本円にして3億円を超える賞金が贈られる。審査も並ではない。200人を超える科学者、技術者、大学教授の専門家が評価し、「意見一致の指標」という計算アルゴリズムが使われ、徹底した議論の中で審査される。また、表彰式もアカデミー賞並みの盛り上がりのための工夫がされている。2009年のフェアには6人のノーベル賞受賞者が演壇に上がり、将来の科学技術の問題に対する質問に答える時間も持たれたという。オバマ大統領も「アメリカの理科と数学の成績を10年間で世界のトップレベルに引き上げる」と、このイベントを支援している。
あいにく、この年は豚インフルエンザによる渡航規制のために、日本からの参加はなかったが、2011年に参加し、地質科学研究所賞の1位を獲得した千葉県の女子高校生、田中さんの特別寄稿が紹介されている。中学1年から始めた「有孔虫による堆積環境の研究」で参加、浴衣を着て自らの英語で表現したという。
何が、彼らを科学の研究に駆り立て、成果を育んでいくのかを考えてみると、① 周りで困った、悩んだという環境(例えば、トレーラーの暖房のない住環境、自分がらい病に感染した)、② 観察の眼と現象への探究心(例えば、あるゴキブリは音を出すといった昆虫の嗅覚)、③ 両親や教師の支援(田中さんは、小学3年のとき、サンショウウオの卵を発見したというが、両親が、センス・オブ・ワンダーの機会、道具をあたえてくれたという)、④ 特別な才能をもった子供たちを延ばす教育環境(いわゆる飛び級というエリート教育、奨学金)等、が挙げられる。
日本では、高校生を熱中させるイベントといえば全国高校野球がある。また、芸能人になることを憧れる若者も多い。日本にもこのサイエンスフェアのように若者に科学技術がかっこいいと思わせるしくみがあってもよいのではないだろうか。日本の企業も、学生の理系離れを防ぎ、将来的にも科学技術立国日本を発展させていくために、こんなところにも投資の眼を向けたらどうだろうか。       (杉山 哲朗)