「たまたま」-日常に潜む「偶然」を科学する- | 一般社団法人 中部品質管理協会

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 本書は、カルフォルニア工科大学で、ファインマン博士に師事した理論物理学者、レナード・ムロディナウによるもので、確率、統計、ランダムプロセスを日常の出来事から解説し、データの見方に示唆を教えてくれる話が満載である。また、これだけの科学書がベストセラーになるアメリカ人の科学への関心の深さに感心した。
・独立した事象A、Bがある場合、A、Bが同時に起きる確率は掛け算で、いずれか一方が起きる確率は足し算である。DNA鑑定で偶然に一致する確率は10億分の1で、鑑定に際して研究所が間違う確率は100分の1に近い。従って、DNAの鑑定の不確かさは、偶然の一致と研究所が間違うことが同時に起きる可能性は無視でき、10億分の1+100分の1になり、100分の1に近似できる。裁判所は、しばしばDNA鑑定を容認しないという理由である。
・本当のランダムネスは人工的に作ることは難しい。ジャガーという男が、モンテカルロで6台のルーレットに人を1人ずつ張りつけ、12時間に出た数字のデータを採り、6番目のルーレットが9つの数字が明らかに頻繁に出ることを掴んで、50万ドルを稼いだ。しかし、5日目から負け始めた。彼は、勝ち続けている間にルーレットに小さな傷があることに気付いていたが、それが無くなっていた。カジノのマネージャーたちがルーレットに何らかの関係があると推測し、入れ換えていたのである。
・フランスの大数学者、ポアンカレがパン屋のいかさまを見抜いたという話。彼は、毎日買っている1000gと称するパンの重量が、平均950gしかないことに気付いて苦情を言った。その後、大きいパンを受け取るようになったが、胡散臭いと思った彼は、毎日パンの重量を量ってヒストグラムにし、それが正規分布になっていないことを確認した。相変わらずパン屋は平均値の軽いパンを焼き続け、ポアンカレだけには重いパンを届けていたことを見破ったのである。
 他にも確率では、パスカル、ベルヌーイ、ベイズ、統計では、ゴールトン、ケトレー、カール・ピアソンらの業績と、人となりを紹介しており、確率、統計の副読本として役立つ。そして、最後の話題が、本書の原題である「ドランカーズ・ウォーク」のランダムネスである。植物学者ブラウンが、顕微鏡で花粉の小粒子がランダムに動いている現象を観察し、ブラウン運動を発見した。アインシュタインがそのメカニズムを数学的に解明し、統計物理学の発展につながった。さらに、その後の複雑性の研究等、社会や人間の行動に関する興味深いランダムネスの事例が紹介されている。
我々は、仕事、業績、友人等、人に関わる事象について結果を批判したり、その結果には説明できる理由があると考えがちであるが、その背景にはランダムネスが存在する。人生の成功にも、悲しい出来事にもランダムネスの作用があることを見逃してはならないという科学者らしい人生観は何となく納得がいく。そして、前向きに歩き続けていれば、運命の神様が偶然に成功に導いてくれる。IBMのワトソンの「成功したければ、失敗の割合を倍にしろ」の言葉に勇気づけられる。   (杉山 哲朗)