これからの日本のモノづくり | 一般社団法人 中部品質管理協会

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「モノづくり原論」(常盤文克他著)は、これからの日本のモノづくりを考える上で多くのヒントを与えてくれる。デジタル技術の進化によって、家電、携帯電話、自動車等、高性能、多機能のアプリケーションが次々と搭載され、いわゆるマン・マシンターフェイスで様々な問題が起きている。すなわち、過剰機能が複雑さを増すことにより、アナログ的な思考、行動をとる人間が追縦できなくなってきている。今までの日本のモノづくりは、メーカー発想で、コストや効率化、スピード、生産性の量の追求に終始してきた。これからは、快適さ、安心、満足、幸せ、豊かさといった質の追求が求められており、図に示すような物と心が重なり合うようなあり方を模索すべきであると主張している。
モノコトヒト物は、人が作り出すモノ、心は人が抱く夢や思い、情熱、使命感等、ヒトのココロの世界、そして、事は両者が重なり合った領域のコトであり、夢や思いをモノにするしくみや仕掛けである。そして、モノ、ヒト、コトが一体化していくことが大切であるという。昔、本田宋一郎は、マン島レースへの参戦を宣言し、技術者たちを奮い立たせ、その能力を集団として引き出す仕掛けづくりをした。これは、技術者たちの夢をかなえさせたコトづくりの例である。
もう一つ、日本人の心のモノづくりを思い起こさせる出来事にハヤブサの帰還がある。開発リーダーの川口淳一郎は。ホームページに「なぜ、君はそこまでして指令に応えてくれたのか・・・」と綴ったという。もちろん、君とはハヤブサのことである。そこには日本の伝統工芸の職人がモノと対話している姿がうかがわれる。モノと技術が一体となったハヤブサのものづくりは、作り手の一方な押し付けによる大量生産、大量消費のモノづくりと対極にあるこれからの日本が目指すべき、モノとヒトが重なり合ったココロのモノづくりである。
はじめに、デジタル技術の弊害について述べたが、デジタル技術を有効にするソフトウェア(利用技術)もこれからの日本のモノづくりにとって欠かすことはできない。「ソフトウェア社会のゆくえ」(玉井哲雄著)は、その重要性をわかりやすく教えてくれる。家電、携帯電話、自動車とあらゆるモノは、コンピュータがアクチュエータ、制御機器と接続され、組込みソフトウェアによって実時間で動作し、稼働している。携帯電話のソフトウェアは1000万行からなると言われる。そして、時には、そのバグによって致命的な事故をもたらし、大量のリコールを引き起こすことになる。また、今の日本のソフトウェアの課題として、ハードウェアに比して生産性が極めて低く、労働集約的である。さらに、中国、インド等に依存する輸入超という状況にあることが挙げられる。
これからの日本のモノづくりには、従来からの強みであるモノ(ハードウェア)に、心とソフトウェア(利用技術)を上手く融合させていくことが求められる。
(杉山 哲朗)