時代に取り残されないようにと思って、本屋で平積みになっているものを手に取
るようにしている。著者、ピーター・ティールは、オンライン決済システム、PayPal
の共同創業者で、エンジェル投資家として様々なテーマに投資している。本書は、ス
タンフォード大学の学生向けに行った「企業家」に関する講義の教科書である。
在るものをコピーするやり方は、繰り返せば見慣れたものが増えるだけで、１がＮ
になるだけである。そうではなく、新しく何かを生み出すことはゼロを1 にする。
創造する行為をするにはどうしたらよいか。新たなテクノロジーをうみだすことであ
り、新しい世界をつくることである。こうしたらイノベーティブになれるという方程
式の解を示すのではなく、いかにしてビジネスをとらえ、思いがけない場所に、新た
な価値を見出すかという原理を教えてくれる。考える訓練として、自ら問うべきこと、
答えるべきことを提案している。
ティ－ルは、新しい発想を沢山教えてくれているが、その一端を紹介する。
競争ではなく独占企業をつくること。競争はイデオロギーで、自分が競争に捕らわ
れ、競争すればするほど疲弊し、得られるものは減っていく。独占すれば、価格と生
産量を調整して、利益の最大化を図ることができる。独占企業の特徴は、１．模倣さ
れないプロプライエタリー・テクノロジー、２．ネットワーク効果、３．規模の経済、
４．強いブランド力、であり、グーグルはその好例である。
今、一番、期待される企業ビジネスは、クリーンテクノロジーであるが、今のとこ
ろ成功している企業はない。それは、ビジネスとして答えを出すべき7 つの質問、即
ち、１．エンジニアリング、２、タイミング、３．独占、４、人材、５．販売、６．
永続性、７、隠れた真実、をおざなりにしているからである。ただし、テスラだけは、
この質問に答えてスタートアップしている。（例．ハイエンドの電気スポーツカー）
隠れた真実に目を向ける。自然が語らない真実、人が語らない真実は何か、だれも
見ていない現場を捜せ。（例．どこかに行きたい人と、送りたい人をつなげるだけで、
数十億ドルのビジネスを生んだ、個人送迎サービスのリフト）
人生は宝クジではない。企業家に幸運という言葉はない。単なる反復はゼロから１
を生みださない。インテリジェントデザインこそが大切だ。企業家は人生の手綱を握
るだけでなく、小さくても大きな世界の一部を支配することができる。
ところで、こんな言葉をご存知だろうか。リバタリアン、バイラル、シンギュラリ
ティ、キュレート、エルームの法則、イーベイ、リンクトイン等々。時代に遅れない
ためには、新しい知識も学ぶ必要がある。
独創的な創業者は、有無を言わせず決断を下し、忠誠心を呼び起こし、数十年先ま
で計画ができなければならない。その典型はスティーブ・ジョブズであろう。
アメリカは、他にもPayPal マフィアと呼ばれる著者等を含めて、多くの異端児を
生み、育てる土壌がある。それが、アメリカを多くの面で自由に発展させていく基盤
になっているものと思う。 （杉山 哲朗）
