学びとは何か-「探究人」になるために- | 一般社団法人 中部品質管理協会

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今井むつみという認知科学者の著書で、知識構築、創造という面から、学ぶことの大切さと方法を教えてくれる。岩波新書でコンパクトに、超一流の達人になるヒント等、多くの知見を得ることができた。以下、参考になったところを紹介する。

スキーマとしての知識 文章、映像、日常生活の現象等を理解する時、行間を補うために使う常識的な知識をスキーマと呼ぶ。何かを学ぼうとする時、必ず、既に持っている知識を使い、それがスキーマとして、新しいことの学習に大きな役割を持つ。ものごとが起きる規則性、因果関係を理解しようとする結果、生まれるのがスキーマである。スキーマは、経験則で必ずしも正しいとは限らない。スキーマは、情報を取り込み、記憶するために重要な働きをするが、それが誤ったものであると、思いこみ知識になる危険性がある。人が科学や外国語を学び上達していく上で大事なことは、誤った知識を修正し、スキーマを修正していくことである。

熟達するとは 臨機応変に対応できること。すなわち、それを実行するために必要な手続きが反射的に提示され、それを実行するために、すぐに体が動くことである。そのためには、「スキルの自動化」といって、今、インプットした情報を、貯蔵しておいた長期記憶と照合して、素早く情報処理ができること。そして、未知の状況に対し、このように行動したらどのような結果になるかという予測ができるメンタル・シミュレーションができることである。

ひらめきと直観 複雑な問題解決をする時、その時々、その場その場の判断だけでなく、先が不明瞭な段階でも最終的にどこに向かうかということが予測できるのが直観で、短期的に、次の手をどう打つかのアイディアがヒラメキである。直観が働くためには膨大な量の過去の記憶があり、必要な時に、知識を取り出せるようになっていること。熟達者は、重要な情報を短い期間に記憶し、持っている知識によって正確に状況が認識できる。認識力は、複雑なものを識別できる能力でもあり、その最高のパーフォーマンスの発揮は、美術や芸術の価値を識別できる審美眼である。

科学的思考 科学は、仮説、実験、検証のプロセスで思考が進められるが、その思考過程は、実験をしてデータを取ることができることだけではなく、実験のやり方、データの解析の仕方といった論理を組み立てるスキルと、正当性を立証するために、証拠に基づいて、論理的に積み重ねていく批判的思考が求められる。そして、仮説から立証までの筋道を、自ら構築する体験を繰り返すことが大切である。さらに、科学には、論説のスタ-トになる仮説を構築するための直観が必要である。

最後に、探究心を育てるための鉄則として、知識とは自分で発見するもの、使うことで身体の一部にするもの、システムの一部であること、そして、システムと共にどんどん変化していくものであるという知識に関する認識。そして、探究を自ら体験し、その楽しさを味わい、それが習慣となること、を挙げている。

学習意欲を高め、探究人となるための知恵を教えてくれる本であった。(杉山 哲朗)