限界費用ゼロ社会-IoTと共有型経済の台頭- | 一般社団法人 中部品質管理協会

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著者ジェレミー・リフキンは、広い視野と鋭い洞察力で社会を分析し、未来を構想する文明評論家である。進展しつつあるIoTの社会に与えるインパクトを様々な事実から、未来へ展望を示してくれる。

限界費用ゼロとは  新しいテクノロジーは生産性を向上させ、価格を下げる。消費者の下にはお金が残りさらなる競争へと駆り立て、競争の結果「極限生産性」に至る。それによってムダを徹底的になくし、限界費用、すなわち、財やサービスを1単位増加させるコスト(固定費を除く)が、実質的にゼロになり、製品やサービスがほとんど無料になることである。既に、情報は、携帯電話やコンピュータで、ほぼ無料で人に伝わるようになっており、太陽光発電や風力発電による再生エネルギーによって電力コストを限界費用ゼロにし、製造業では、3Dプリンターによって個別に品物を限界費用ゼロで生産できるようになりつつある。

IoTの発展  IoTは、環境と自然を統一性のあるネットワークに取り込み、あらゆる人とモノが通信して相乗効果を追求し、効率を高め、地球全体の相互接続を促している。そのしくみは、コミュニケーション・インーターネット、エネルギー・インターネット、輸送インターネットから構成される。

資本主義は、石炭、蒸気のテクノロジーによる第1次産業革命、石油、内燃機関、電信、電話による第2次産業革命へと発展してきたが、私たちが今、遭遇しているIoTによる革命が第3次産業革命といえる。第1次、第2次産業革命の構造が、資本集約、規模の経済、垂直統合型であったのに対し、IoTによる革命は、分散型、協働型、水平展開型である。

IoTによって何がどう変わるか(例) ・コミュニケーション・インターネットによって情報の透明化、協働が増し、プライバシーの魅力が失われる。情報やニュースは、グローバルネットワークでつながり、無料でシェアできる。(例.フェイスブック、ツイッター)

・ものづくりは、3Dプリンターによってマイクロ・インフォ・ファクチャリングとなって、大量生産から大衆生産に移行していく。生産者と消費者が一体となったプロシューマーとなる。

・人工知能、ロボットが、各種製造業、サービス業で人間の労働にとって代わる。ウォルマート、ノードストロームはインターネット販売へ。自動運転車によってアメリカのトラック運転手は姿を消す。

・希少性が潤沢さにとって代わる。例えば、スタンフォードの年間5万ドルの一流講義を、世界中の希望者が、コストゼロでバーチャル講座を受講できる。

・政府、市場の企業に対し、制度化された自主管理活動によるコモンズと呼ばれる団体や組合が財やサービスを取り扱うことが増える。

・所有からアクセスに転換していく。例えば自動車の保有からカーシェアリングへ。医療では、患者同士が病歴をシェアする参加型医療モデルによって、治療費が安くなる。

IoTによる社会の歪  IoTによって、フリー(自由と無料)の社会へと住みやすい環境になっていく反面、地球の持続可能性の課題が出てくる。すなわち、エコロジカル・フットプリント(消費する資源の生産量)に対し、バイオキャパシティ(排出する廃棄物の処理量)が追従できなくなる。さらに、人類だけでなく、他の動物の生存をも危うくする気候変動、サイバーテロリストによる危険の増加がある。

最後に、著者は、人類の進化の歴史の中で、人々は、宗教による神学的意識、同胞、国家によるイデオロギー意識、文化や政府の国の枠を越えた心理的意識へと、ものの見方、考え方を広くしてきた。IoTによる調和のとれた地球の未来を築いていくために、さらに、精神的な支えとして、世界文明化と共感によるグローバル意識と生物圏意識を培っていくことが求められる、と主張する。

グローバルに歴史と世界を洞察した著者の見識から、未来を考える多くの示唆を得ることができた。

(杉山 哲朗)