偶然の統計学 | 一般社団法人 中部品質管理協会

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イギリスのハンドという統計大家の本で、多くの事例を通して、人は偶然という名のもとに間違った判断をしやすいものであることを知らされ、確率・統計リテラシーの向上のために役立つ。

世の中には迷信、奇跡、予言といった、到底起こり得ない出来事にあふれているが、基本的な確率法則による帰結からすれば、起こりそうにもない出来事も起こるはずである、という「ありえなさの原理」による。その主たる法則は、

・不可避の法則-起こりうるすべての結果を一覧にしたなら、その中のどれかが必ず起こる。ゴルフのボールは、グリーンのどこかで止まる、カップに入る、グリーンを越える、のどれかである。

・選択の法則-事象が起きた後に選べば、確率はいくらでも高くすることができる。矢を射た後に的を描けば、矢を中心円に的中させることは容易であるという小話がある。事故が起きた後、いくつかの兆候をさがし因果関係を説明する、後知恵もこの類である。

・超大数の法則-十分大きな数の機会があれば、突飛なできごとも起こってもおかしくない。四葉のクローバーの確率は、1万分の1であるが、多くの人が何回もさがせば見つける人がいるのは驚きではない。さらに、組み合わせの法則というのがあって、機会の数は爆発的に増える。

・確率てこの法則-環境のわずかな変化が、確率に途方もなく大きい影響を及ぼす。正規分布で±3σから外れる確率は、千分の三、±4σから外れる確率は、約万が一、

±5σから外れる確率は、約8百万分の一。(コーシー分布は、さらに影響大)

・近いは同じの法則-十分似ている事象は、同じものとみなされる。レースがデッドヒート(同着)になる確率は、ストップウォッチの精度に左右される。

最近発生したトヨタ自動車のある部品工場の火災によるラインストップも、超大数の法則(自動車部品は約3万点)、選択の法則(数ある工場からトヨタ自動車を選ぶ)からすれば、そう偶然ではないだろう。(現実に約20年前に同様なことが起きている)

先の後知恵のように、心理学的にも、自分の説を肯定する証拠や出来事に気付き、他の傾向を示す物事を無視しがちな「確証バイアス」、例えば、頭に衝撃を受けて痛みを感じた時、後になって、気に懸けていた人が亡くなったことを聞いて、結びつけて考える「シンクロニシティ現象」、極めて低い確率を過大評価し、極めて高い確率を過小評価する「可能性効果」等、確率的に誤判断するケースが多いことも紹介されている。

最後に、確率・統計によるアプローチとして、教えられたこと。

1.確率的最適化の方法として、① 一歩一歩、方向をランダムに選ぶ、② 一歩を沢山積み上げる、③ 次の良い方向の一歩を選択する、は超大数の法則と選択の法則で最適解に到達する努力の仕方。(これは、生物進化論の自然淘汰説に相通じる)

2.何かが十分に起こりそうにないと見えたとしても、そう見えたことを疑う根拠が存在すると考えて、その説明をさがす。これが、統計的な推論の基本。

確率・統計による科学的思考の基本を教えてくれる良書である。   (杉山 哲朗)