医療再生―日本とアメリカの現場から- | 一般社団法人 中部品質管理協会

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著者、大木隆生氏は、東京慈恵医科大学外科学講座のチェアマンを務める血管外科のDr.である。12年間、ニューヨークのアインシュタイン医科大学に勤務し、9年前、母校の慈恵医大に戻った。日米の体験の比較から、医療再生に向けての提言をしている。

アメリカの医療界の光と影。問題点として、民間保険、医療費が高額である。(盲腸手術の1泊2日で300万円)インフォームドコンセントによって、医師と患者の溝が深まり、訴訟になりやすい(200億円の賠償金の例)、ことが挙げられる。見習うべき点としては、医療過誤を審査する第3者機関、合理的な専門医制度(テスト、実技チェックのしくみ)、医療補助スタッフの充実(外科手術の助手PA、高い技量をもつ看護師NP)等がある。

大木Dr.は、日本では例が少ない血管外科手術の腕を磨くために、無給でアメリカに渡り、大動脈瘤の手術に使うステントグラフトの改良等によって技術が認められ、最年少で教授になり、年俸1億円を稼ぐまでになった。しかし、日本の病院で、治療不能と診断されてアメリカへ来た患者を手術し、「ありがとう」の声を聞き、1/10に収入が減るにもかかわらず、日本へ帰る決心をした。そして、母校の外科医局の再生に貢献したのである。

大木Dr.の活躍のポイントについて、マネジメントの4「し」から、解説してみたい。

思想の「し」の信条。日本人の患者を治療する。日本人の後輩を育成する。ピンチの母校を救うという使命感で、「トキメキと安らぎのある村社会」としての医局の実現に取り組んだ。村社会というのは、日本的な血縁や血縁、友情によって強い絆をもつ集団を意味する。

しくみの「し」のシステム。外科医局という村社会の絆と帰属意識を強め、明るさと活気をもたらすために、学生時代の部活や村のお祭りを参考に、新入局職員の歓迎会、忘年会、同門会(OBと現役の交流)、慰安旅行といったイベントを実施した。

しかけの「し」の道具立て。在米中、既に創意工夫によってステントの改良をしたように、手術器具の発明、改良をいくつも手掛けている。(「切ってつまめるハサミ」、「ずれないメガネ」といった一般的な物も含め)そのため、1日10分はクリエイティイブな時間を設けるように心がけている。

しつけの「し」の教育・訓練。帰国早々には、日本で少なかったステントグラフト使ったライブ手術を何回も実施して紹介。学生には外科の魅力を伝える教育。(学生の経歴を調べ、一人ひとりに名前で声をかける。)地域医療に貢献するための僻地への外科医の派遣等。

このようなマネジメントの結果、帰国時(2006年)、196人に減少していた医局員数が、277人にまで増加した。外科医になったのは、「人に喜ばれる仕事」をしたかったからで、人間たるもの「衣食足りたらイキイキを求めよ」を信条にしている。

最後に、日本医療の未来像の一つに挙げているのは、日本の誇る「匠の技」による先進医療機器の開発である。(因みに日本の医薬品、医療機器の市場はアメリカの1/4)これは技術立国日本につながる課題でものづくりの立場からも嬉しい。

医療の究極の目的は、「患者さんの苦しみと憂いを取り除くこと」にある。このことに心がけて医療を行っているという。大動脈瘤、頸動脈狭窄症という難しい手術に日々、挑戦し、大和心を忘れない、大木Dr.にエールを送りたい。             (杉山 哲朗)