現場論 | 一般社団法人 中部品質管理協会

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著者、遠藤 功氏は、外資系コンサルタント会社で、多くの企業現場を歩いて活躍し、現場力に関する多数の著書を出されている。デンソーの後輩から、デンソーのことが紹介されていると奨められ、拝読した。考え方が概念図で判り易く解説され、論が事例で裏付けられている。

デンソーで紹介されているのは、ダントツの競争力をもつ生産体制づくりの手段として展開した1/N設備づくりの活動と、それを生みだしたデンソーの企業風土である。

著者は、TQMという言葉を一切使ってみえないが、デンソーでTQMを推進してきた者として、内容はTQM活動そのものだと思った。

・現場の仕事は、価値創造業務、業務遂行業務、人材育成から成るとしているが、TQMでいう方針管理、日常管理、人材育成と職場の活性化である。

・現場力を高めるには、保つ能力、よりよくする能力、新しいものを生み出す能力が必要である。これは、TQMでいう維持、改善、革新の活動に相当する。

・現場力は、合理的必然性と合理的しくみから、成功体験を生みだす現場をつくることである。そして、合理的必然性は、戦略、能力、信条から決まる。デンソーでいえば、信条は経営理念(先取、信頼、総智・総力のデンソースピリット)で、戦略は、ビジョン、長期計画である。合理的なしくみもTQM活動を推進する中で築き上げてきた、初期流動管理、工程能力調査、次期型研究会、QCサークル活動といったしくみを挙げることができる。

・標準、マニュアルにこだわり、規律を徹底させ、厳しい管理を実現し、さらに現場の知恵でそれを進化させていくことが、現場の平凡を非凡にする。デンソーは、日常管理を確実にする標準化体系を確立し、維持、改善してきた。そして、マニュアル・ワーカーから、ナレッジ・ワーカーへの育成が大切だといわれているが、人材育成のための技能教育、技術教育のセンターを設置し、階層別、職種別の教育体系を構築し、資格に挑戦するための検定制度を進めている。

・よくする環境をつくるしくみとして、標準-気づき-知恵-改善、のサイクルをあげているが、これは、問題解決の手順に相当し、標準(あるべき姿)と現状のギャップの問題点の発見から改善のサイクルが始まる。

・創造は自由から生まれ、自主性、自発性、自律性の発揮による自主管理のできる現場をつくることといわれているが、これはQCサークル活動そのもの。そして、現場が納得するしくみとしての報酬、競争には、改善提案制度やQCサークル発表会の表彰がある。

・現場のボトムアップは、トップダウンから、といわれている。TQMのTはトップのTでもある。現場の実践というプロセスを通してのビジョン、志の共有は、共感となり、共振していく。その交流によって、現場はとてつもない力を発揮する、という言葉で表現されている。

デンソーをはじめ、ヤマト運輸、良品計画、サンドビック、住宅金融支援機構、旭山動物園、天竜精機等々、業種、規模の大小を問わず、ユニークな現場の改善活動が紹介されている。理論展開も事例も、TQM活動の推進に参考になる内容である。

最後に、現場経営こそが日本の競争優位を生みだすマネジメントであり、日本の現場が海外生産に移行していく中、現場力をGenba-Ryoku、ジャパン・スタンダードからグローバル・スタンダードにして、展開を図っていく必要がある、と結んでいる。

現場力を高めるバイブルとして、繰り返し、読み、確認したい書である。   (杉山 哲朗)