カイゼン(復刻改訂版) | 一般社団法人 中部品質管理協会

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著者、今井正明氏は、日本のカイゼンの伝道師として知られる。もともとは、戦後、日本企業のアメリカ視察に同行した通訳であったが、今はKaizen Institute の会長を務め、1980年代からは、日本のカイゼン活動(当時のTQC、トヨタ生産方式、TPM)を、アメリカから全世界へと普及活動にあたっている。本書は、1986年に英語版が、そして、1988年に日本語版が発刊され、日本のカイゼンの概念と日本企業(トヨタ自動車、小松製作所、富士ゼロックス等)のカイゼン活動の事例が紹介されている。2010年、新章を追加し、復刻版として発刊された。

海外に普及した日本のカイゼン活動

1.マネジメントは維持と改善からなる。欧米の改善は、新技術、新設備によるイノベーションであるが、日本のカイゼンは、不断の努力の結果として、小さなカイゼンが積み上げられていく。そして、カイゼンには、個人、グループ(例えば、QCサークル)、管理者のカイゼンがある。

2.欧米は結果指標の基準に対する改善であるのに対し、日本のカイゼンは過程(プロセス)指向で、人間指向であり、人の努力にねらいをおく。過程指向の指標として、規律、時間管理、能力開発、参加と関与、士気、コミュニケーションに着目し、カイゼンでは、分かち合い、思いやり、献身が尊ばれる。面白いたとえとして、大相撲の殊勲賞、技能賞、敢闘賞、日本の神社仏閣は、祭壇までに多くの石段をのぼり、鳥居をくぐらなければならないことが挙げられている。

3.カイゼンは、短期的な利益指向ではなく、長期的な企業体質の改善をねらいとする。組織内のコミュニケーション、組織間の連携を大切にし、労使の協力、さらには、仕入先との協力により長期ビジョンの達成に努力する。

4、トップのリーダーシップ。新製品開発、品質保証、生産、購買と、経営を一貫してカイゼンを進めようとすれば、トップの決断が不可欠である。各社で社長を務められた、小松製作所の能川昭二氏、横河ヒューレットパッカードの笹岡健三氏、富士ゼロックスの小林陽太郎氏を、ミスターTQCとして紹介している。小林氏は、カイゼンの効果として、①局地的なものから全社展開、②継続的なカイゼンと歯止めのシステム、③時間軸に加えて競争優位、を挙げている。

 新章として追加されている内容

1.現在の日本企業のチャレンジは、フレキシビリティ、ダイバーシティ、スピードである。カイゼンは競争力を高めるためのマネジメントとして、不変である。企業は、理論と経験から、自ら考え、時間をムダにせず、チャンスがあればすぐに行動に移す人材育成を忘れてはならない。

2.カイゼンは、クリーンとグリーン。現代は環境を避けて通れない。リーンとは「最小の資源を使って、最大の成果をあげる」ことであり、カイゼンは、リーンに通じ、リーンは、グリーンに通じる。ムダを取り除いていくカイゼンは、今までにも増して重要である。

3.製造業にとどまらないカイゼン活動-ムダのない国-。企業体に止まらず、政府、ビジネス環境を含めたカイゼン化された効率的なバリューチェーンをめざす。そのために、モーリシャスで進められた4Pモデルを紹介している。すなわち、People Engagementによる 、Process 、Policy 、Physical Workshop のカイゼンである。環境の廃棄物、ビジネスの不用物のムダを取り除くために、すべての人が、すべての場所で、毎日、カイゼンを実行することである。

25年の時を経た本であるが、温故知新で改めてカイゼンの原点を確認し、さらなるカイゼンの進め方を考える機会とすることができた。                (杉山 哲朗)