地球と共存する経営 | 一般社団法人 中部品質管理協会

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著者、小林喜光氏は、三菱ケミカルホールディングス会長で、経済同友会代表幹事を務める。理学博士の肩書きを持ち、「哲人経営者」といわれる。

東日本大震災、原発事故の後、会社を建て直すにあたって、今までの経営手法では、企業の暴走を抑えることはできない、という深い反省と危機感から、21世紀の企業に必要なアイテムとして、MOS(Management of Sustainability)という新しい視点を考えたのである。現在から将来を見据え、地球上の人類のサステナビリティを考える時、解決すべき課題は、環境問題、人口問題、貧困問題の3つである。国や地域が自分たちの目先の課題を優先して考えていては身動きが取れない。目先の利害、すなわちMBAコースで教える管理手法に目を向けるだけでは見るべきものが見えない。一企業でできることはたかが知れていると判っていても、自ら考えをめぐらし、自らの会社で実践したことに敬意を表する。

そして、経営を進める軸として、MBAの教える経営手法(MBA軸)、イノベーションを継続的に起こしていくための技術経営(MOT軸)、それにどちらとも直交する座標軸として、MOS軸を加えた3次元経営を考え、さらに時間的に3つの軸全てを進化、発展させていくという時間軸を組み入れ、MBA、MOT、MOSの合成ベクトルを企業の価値として捉える4次元経営の姿を描いたのである。過去の人類のサステナビリティの研究成果として、マルサスの「人口論」、J・S・ミルの「経済学原理」、ローマクラブの「成長の限界」等を勉強し、「サステナビリティ学」の経営への適用を試み、率先して実行したのである。

三菱ケミカルホールディングスは、三菱化学、三菱樹脂、田辺三菱製薬、三菱レイヨンを傘下におき、69のSBUを持つ。そして、それぞれに20年後のありたい姿と現況から、10年先の具体的課題とそのMOS指標を検討したのである。その結果が次の指標である。

Sustainability指標→地球環境資源の削減への貢献、省資源・省エネルギー対応への実践、環境負荷低減への貢献。Health指標→疾病治療への貢献、QOL向上への貢献、疾病予防、早期発見への貢献。Comfort指標→より快適な生活のための製品の開発・生産、ステークホルダーの満足度向上、より信頼される企業への努力。MBA指標は、利益、株価といったお金で数値化が容易であるのに対して、MOSは、どういう社会を目指すのか、そこでどういう貢献をしたいのか、そのために自分たちはどう考え、行動していくかで、お金では測れないところを指標化していくのに苦労したのである。

筆者は、企業活動を「ひとの営み」としてとらえたならば、MBA軸は、「欲」、MOT軸は「知」、MOS軸は「義」の行動(あるいは、MOS-心、MOT-技、MBA-体)として、考えることができる。また、MBA軸は4半期、MOT軸は10年、MOS軸は100年のスパンで評価していくべきものであると解説している。

そして、MBA、MOTの経営管理だけでは足りない。MOSは、企業活動の本来あるべき「バランス」をもたらすものとして、東洋的な視点を経営に持ちこみたい(あらゆるものの輪廻に等しいと説明)と考えたと言っている。

技術経営者としての「理」と、高い理想に基づく「情」をベースにした経営哲学の提言と自らの企業における実行力に共感した。                (杉山 哲朗)