オートメーション・バカ 先端技術がわたしたちにしていること | 一般社団法人 中部品質管理協会

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著者、ニコラス・カーは、先に「ネット・バカ」を出し、技術に関する社会的、文化的、経済的問題を論じており、本書は350余の参考文献による該博な知識からオートメーション化する世界の行方と対応の仕方について示唆してくれる。オートメーションといっても、産業革命における機械化・自動化から電子技術、ITによる先端技術までを指している。

私たちは、蒸気機関、自動織機による第1次産業革命、コンベヤシステムによる第2次産業革命によって、人の手、足、体の省力化により、生産性の向上、労働コストの低減、といった恩恵を受け、さらに、ロボット、センサー、コンピュータによる第3次から、第4次産業革命へと突入し、頭の省思考化による知的生産性の向上の時代に入っている。オートメーション化の多くの事例と人と社会への影響から、考えさせられる課題が多い。

飛行機の自動化(コックピットオートメーション)。A320では、6つのCRTスクリーンによる状態監視、フライ・バイ・ワイヤの飛行制御通信網、サイドスティックと呼ばれるパイロット横の操縦桿によって、飛行が行われ、操縦士が実際に操縦装置を操作するのは、離着陸時の3分に過ぎない。事故率は、1962~1971年の100万人に133人から、2002年から2011年の100万人に2人に減少した、という。しかし、最近の飛行機事故の2/3はパイロットのミスで、パイロットの精神運動的スキルが錆ついてしまっており、パイロットの3/4以上が、スキルが衰えたと言っている。

EMR(Electronic Medical Report)システムは、本来、医師の診断を補助し、ミスを回避するためのものであるが、医師は情報収集と入力に陥ってしまい、患者の話を聞かなくなってしまっている。患者の緊急時にはコンピュータ診断は役に立たない。金融分析、法律訴訟等にもビッグデータとエキスパートシステムが使われ、知的労働の自動化が進んでいるが、表面的な相関関係の活用や、既存のパターンから逸れている場合には役にたたない。

GPSやCADの功罪。イヌイットのハンターたちは、地図やコンパスを使って獲物を追っていたが、GPSの適用によって知恵と知識を失った。GPSは、その世界を経験するというプロセスを阻んだのである。CADによる計算と視覚化の速さと正確さは、建築家やエンジニアに新しい形式や形態、材料を実験する機会をあたえたが、芸術的創造行為を奪っている。我々は、道具を使って労働することの身体的喜びを奪う道具を発明したのだ。

自動運転車の課題。自動運転車が自分の子供をひきそうになったら、コンピュータはどう判断するだろうか。ドローンによるミサイル発射装置等の致死性自律型ロボット(lethalautonomous robot)の 社会的、倫理的操作のオートメーションの行き先をどう考えるべきか。道徳的行動、すなわち、オートメーションによる心の判断がこれからの重要課題となる。

最後にオートメーションへの対応について、草を刈り取る大鎌は、多くの仕事をなすことで労働生産性を向上させた一方、人にそれを使用する者と世界との関わりにおいて多くのことを知らしめた。大鎌は、身体の道具であるのみならず、精神の道具であったことを譬えに、テクノロジーを人間的にし、その冷たい刃を賢明な用途に用いる責任は、ツールのユーザーであり、作り手である我々にある。それには、警戒心と慎重さが要求されると結んでいる。