「タレント」の時代-世界で勝ち続ける企業の人材- | 一般社団法人 中部品質管理協会

一般社団法人 中部品質管理協会は、品質管理を中心とする管理技術・マネジメント手法を教育・普及する専門機関です。QC検定®対応講座も開催しています。

ホーム > 「タレント」の時代-世界で勝ち続ける企業の人材-

タレントといっても映画やテレビのタレントではない。企業における有能な人材をいい、そういう人材をいかにして発掘し、育て、活用していくかについての提言である。日本の産業の中心は、自動車、エレクトロニクスであった。しかし、エレクトロニクスは10年前の26兆円から11兆円と落ちこみ、パナソニック、ソニー、シャープは、アップル、サムスンの後塵を拝している。

品質管理の祖である石川馨博士によれば、「日本的品質管理とは、買い手の要求にあった品質の品物又はサービスを作り、経済的に生み出すための体系である。最も経済的な、役に立つ、しかも買い手が満足して買ってくれる製品を開発し、生産し、サービスすることである」とある。今の日本は、大量生産の品質管理は、考え方と方法が海外に模倣されてしまい、競争力を失ってしまっている。市場で売れる製品をいかにして作るかが課題である。

売れる製品を会社で開発するタレントが求められている。物づくりの本質は、①設計情報の創造の製品開発システムと、②設計情報の転写の生産システムにあり、特に、①の創造的、非定形的知識労働によって、人的資源を効果的な「ハタラキ」に変えるタレントマネジメントが重要である。設計情報の創造には、商品に関わる設計情報、設計、製造、販売のノウハウ、個人の頭にある知識、経験の蓄積が必要である。そして、タレントは、これらの設計情報を使って、「目的指向」で、「知識を獲得し」、「組み合わせで」活用し、創造的知識労働をする人である。タレントは、2つ3つの専門分野があり、目的を意識して、知識獲得をしながら、アナリシス(分析)とシンセシス(総合)を繰り返し、答えを出す能力を持たなければならない。そのため、タレントは、当該知識がなければ、物理や数学の基礎に戻り、自分自身で学習し、行動し、実験し、学びながら進む人でなければならない。

本書では、そういうタレントを上手く、育成し、成功している例としてトヨタの主査制度を挙げている。車両の開発主査は、市場・顧客・競合の情報、技術情報、原価情報等を踏まえて、商品コンセプトを決め、調査、企画、開発、設計、試作、実験、生産準備、製造、販売の各部門に指示して、車両のラインオフ迄の責任を持って活動する。オーケストラの指揮者にたとえられ、製品の社長であるといわれる。カローラの開発主査を務めた、長谷川龍雄氏は、主査の能力として、①知識、技術力、経験、②判断力、決断力、③度量、④感情的でないこと、冷静であること、⑤活力、粘り、⑥集中力、⑦統率力、⑧表現力、説得力、⑨柔軟性、⑩無欲という欲、を挙げている。トヨタでは、そういう能力を持ったタレントを選抜し、主査になるためにいくつかの職場を経験させ、育成するシステムを持っている。

興味あることは、アップル、グーグルの製品開発力は、トヨタの主査制度を参考にしており、最近のリーンスタート・アップもトヨタの製品開発管理がルーツであると解説している。

考えて見れば、トヨタの豊田喜一郎氏、ホンダの本田宗一郎氏、ソニーの井深大氏、盛田昭夫氏、アップルのスティ-ブ・ジョブズ氏らは、タレントの頂点であった人物である。

グローバル競争を勝ち抜いていくためには、全員参加の継続的改善に加えて、個性と創造性の発揮によって、革新的で売れる製品の開発をリードするタレント人材と、製品開発システムが求められている。本書はそのための多くのヒントを与えてくれる。