図解 ピケティ入門 | 一般社団法人 中部品質管理協会

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サブタイトルに、たった21枚の図で「21世紀の資本論」は読める、とあるように、ピケティ著のベストセラー(日本で10万部、アメリカで50万部)を解説した本である。経済学の専門書で、時間もかかるし大変だと思っていたら、高橋洋一氏が要望にこたえて執筆してくれ、数時間で読了。その概要を理解することができた。

ピケティは、20カ国、2000年というデータを集積して、結論的に、なんとなくみんなが感じていた「格差拡大」ということを r>g の数式で表したのである。すなわち、

g:GDP成長率=資本からの所得(約3割)+労働からの所得(約7割)、の伸び率

r:資本収益率=資本所得の伸び率、とする。

gを資本と労働とに分離したデータを取ることはできないので、gを労働所得の伸び率と考えれば、r>g になると、トップ層はより豊かになり、ボトム層はより貧しくなる、すなわち格差が拡大することになる。そして、その傾向はアングロサクソン型の資本主義社会では著しいと結論付けている。そのことを、資本/所得比率(国民所得に対する資本の比率)、所得格差(トップ1%の所得比率)(なんと、アメリカでは、18%を占める)、資本格差(トップ1%および10%の資本比率)のデータを中心に導いているのである。

ピケティが終始一貫しているのは、まず「データありき」で、そこから世界的な傾向を読み解く姿勢である。古代から2100年迄の予測を含む時系列グラフと、国と地域等の層別による事実の比較から、納得のいく説明を展開している。判りやすい例を示すと、

・1820~1870年の人口の分布を見ると、アメリカとヨーロッパの人口は、20~30%に対し、同じ時期、GDPは、35~50%を占め、特に1820年から急激に上昇している。その事実は産業革命による欧米の生産性向上による。

・GDP増加率は、2012年~2100年までに、最富裕国である西欧、北米、日本は、年率

1.2%で成長する。一方、貧困国や新興国の追い上げが続いて、2012年~2030年に年率5%、2030年~2050年に年率4%で成長する、と予測。

・第1次世界大戦から第2次世界大戦にかけて急激なインフレとなった。その事実は金本位制を放棄し、カネを大量に印刷したことによる。

クズネッツという経済学者は、第1次世界大戦以降の所得税の時系列データから、所得格差のレベルは一たん挙がって下がる「逆U字型」になることを発表し、ノーベル経済学賞を受賞した。しかし、ピケティは、時間軸の広い、多量のデータからその説を覆したのである。データありきの研究では、データの量と幅が肝であることが判る。

ピケティは、格差是正の解決策として、累進性の強い税率を採用すべきと提案しているが、その根拠は、戦後期の欧米で、累進性の強い課税制度によって、資産家の財力が削がれ格差が縮小したという事実に着目している。データというきわめて冷徹で、不動なものを使うことによって、主観に邪魔されず、観念的にも陥らない、ある種「公平な歴史」を描きだした、と高橋氏は評価している。

今、ビッグデータの活用が喧伝されているが、むやみに大量データを解析するまでもなく、仮説とプリミティブなデータを見る洞察力が大切であることを実感した。