夢をまことに | 一般社団法人 中部品質管理協会

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本の帯に山本兼一が、最後に遺した渾身の人間讃歌とある。日本のダビンチといわれた近江の国、国友村の鉄砲鍛冶、国友一貫斎(1778-1840)の伝記小説である。国友は34歳の時、鉄砲づくりの訴訟で江戸へ出て、多くの蘭学者、技術者と交流を持ち、オランダの空砲(空気銃)の修理から、それを気砲として自作、犬山城主に見せてもらったテレスコッフ(反射望遠鏡)から、日本初の反射望遠鏡を製作。さらには、「世の中の人が必要とするものは何でも作ります。私の一番の夢は、空を飛ぶ船を作ることです。大きな筒で月まで届く玉を打ち上げたい」を夢に、距離測定器、懐中筆、ねずみ短檠(油の自動供給装置)を発明した。

当時の江戸で、同じ砲術家、オランダ医の山田大円、国学者平田篤胤から知識を学び、鑞付け、錫細工、真鍮、鉄を溶かす金工師、漆塗りに金、銀をはめ込む沈金師、七宝焼きといった長年培われた技術を職人から学び、ものづくりに活用した。

技術屋でない著者が、国友がつくったものづくりの構造、加工を調査し、詳細に執筆しているのに感心する。反射望遠鏡の技術では、割れない、鬆がでない鏡を作るために、湯と鋳型の温度差を出さないようにゆっくり冷やすノウハウ、何時までも輝き曇らない鏡面を作るには銅65%、錫35%が最適であること、凹面(回転放物面)を出すための砥石の形状、砥粉の材料の選定、主鏡、副鏡、接眼鏡の焦点(千切りという)合わせ等々の国友が取り組んだテスト、失敗の繰り返しと成功をまるで実際を見たかのように解説している。また、国友がオランダの技術を模倣するだけでなく、ネジを沢山使う代わりに、穴と筒をわずかに楕円にして締め付ける技術、鉄砲の砲身を鏡面に仕上げる「もみしの」の技術の日本の知恵を紹介。反射望遠鏡の他のものづくりでも技術の工夫を詳しく解説し、大変、勉強になる。

そして、ものづくりの理と心もよく理解されており、随所で、国友にその言葉を語らせている。ものづくりへの知恵と勇気をもらうことができる。羅列になるが、以下に紹介する。

・世の中の森羅万象を動かしている摂理は同じです。真正面から取り組めば道理が判るはず。かの国でも空を飛びたい人がいれば、同じことを思う。

・ものは正直です。一生懸命やれば素晴らしい物ができる。手を抜いたらそれだけの物しかできない。自分を鍛えて磨けばきっとよい物ができる。

・失敗を乗り越えて仕事を続ける。なぜ失敗したか、まだ試していないことはないか、それをやり続ける。そうすればきっと成功する。

・人間は世の中で通用している常識を根拠もなく信じてしまう生き物らしい。何事も根本から疑ってかかるべし。

・技術は感動から始まる。あたり前のことに潜んでいる不思議を見抜く。

・どうすればうまくいくのか、ただそれだけを考えているのです。頭がこちこちになるまで考えて、くたびれたら別のことをして、新しい気分でまた考える。

・神、仏に感謝しながら鏡を磨いていて、人の感謝を忘れていたことに気が付いた。注文をくれた大名、技を教えてくれた職人、鉄、銅を掘る人、精錬する人、運ぶ人、売る人、助けてくれた村の人、家族、大勢の人の網の目のような結びつきに助けられた。

・空を飛ぶ船はいまだに夢物語にすぎないが、必ず人の役に立つ道具である。いつかきっと誠になる日がくるだろう。どんな逆境でも生きていく勇気が生まれる。人間は夢を誠にするために生きているのだ。