日本型クリエイティブ・サービスの時代 | 一般社団法人 中部品質管理協会

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副題に「おもてなし」の科学的接近とあるように、京都大学経営管理大学院の先生方が、「おもてなし」を研究し、それをこれからの日本の海外展開のためのビジネス・モデルに活用しょうという提言である。

新興国が豊かになっていくと、将来、世界は多数の中所得国になっていく。日本が得意とする要素技術、アッセンブリ技術をグローバルに展開していくために、おもてなし、気付き、長期的信頼関係を基盤とする日本的クリエイティブ・サービスの考え方を織り込んだビジネス・モデルを構築していく。そして、国内の高コンテクストで高価な製品をそのまま移植するのではなく、ローカル化を工夫してデザインする、ことが大切である。そして、その中心となるビジネスは、「か・き・く・け・こ」、即ち、観光、教育、暮らし、教育、コミュニケーションであるという。

クリエイティブ・サービスとは、サービスそのものの機能だけでなく、サービスが提供される場、生産者と消費者が互いに共有意識をもって交流を通して価値を創出することである。従来の経験価値に似た概念であり、日本の「おもてなし」の心に相通じるのである。

「おもてなし」の語源は、「以て」「為す」であり、何を持ってなすかを明示せずに、手段と目的をブランクにして、客に提供することである。サービス提供者と客が、予め、どのようなサービス受けるかを決めておくのではなく、相互作用の中でサービスを作り上げていくのがおもてなしである。例えば、ホテルは、全ての客に共通するサービスを提供するのに対し、旅館は、仲居や女将によって、一人ひとりの客におもてなしを提供している。その特徴として、①知識獲得、活用プロセス重視(例えば、京都の料亭は、季節感を物語の価値にしておもてなしを提供する。江戸前寿司は、鮨だけでなく、部屋の雰囲気を工夫している)、②弁証法的価値共創(サービス提供者と客が互いを尊重し、切磋琢磨によって価値を創出しあう)、③変化と持続の重層性(絶えざる変化と革新を実行して、長続きする関係を築く。例えば、家元制度)を挙げることができる。

そして、価値共創のスタイルを、①明示型(提供者、客のコミュニケーションが明らか)、②慮り型(提供者が客の心理、意図をくみとる)、③見立て型(提供者が客に思いを表現し、伝達する)④摺り合せ型(提供者と客の双方がサービス価値を高め合う)に分類し、具体的に例を挙げて説明している。江戸前寿司は、④の例で、メニューも値段もなく、職人と客がカウンター越しの1対1で話をしながら食事を組み立てていく。例えば、職人は氷の音でグラスに残っている水割りの量がわかるという。(なんでも、江戸前寿司で、おまかせで頼むと2万円はかかるそうだ。)

次に、クリエイティブ・サービスの理解の方法としてのエスノメソッド、定量心理学調査の技法、サービスの創造として、サービスメタモデリング、サービスデザインの具体的方法を示している。さらに、海外事業展開として、「鮨かねさか」のシンガポール進出、「いけばな池坊」の国際化プロセス、そして、製造業としては、お茶の伊藤園、お香の松栄堂のアメリカ進出、サントリーの海外展開の成功事例を挙げ、提言を検証している。

学術的な研究であるが、参考文献による理論的な裏うち、抽象的な内容を実践科学として判り易く解説している。日本は今、4年連続で貿易赤字が続いている。さらなるグローバル化の強化として、従来からの愚直、信頼、こだわりによる仕上がりの良さを追求する高品質のものづくりに加えて、クリエイティブ・サービス、ブランド力の付加価値をセットにして製品を事業化していくためのアイディアと方法を学ぶことができる。